（19）東京出張にて（2024.8.12）

秋田からの出張を終えるや否や、私はすぐさま東京へと向かった。目的はリフォーム産業新聞が主催するリフォーム産業フェアである。今年もJackグループは一つのブースを構え、二名のスタッフが二日間、多くの方々と名刺を交わし、挨拶を済ませたようだ。私自身も、Jackグループとロビンの二つの枠で講演を依頼され、久しぶりに登壇した。会場では、久方ぶりにお会いできた方々とも再会し、こうした機会の大切さを改めて感じた次第である。業界のイベントに足を運ぶことを、ついおろそかにしがちな自分を反省せざるを得なかった。

　さて地方に身を置く者にとって、東京という街は特別な存在である。例えば、岐阜市の学生が「東京へ就職します」と言えば、周囲は「おお、頑張って」と激励するだろう。一方で「高山で就職します」と言えば、「良いところだからね」と、また別の形でその選択を称賛するに違いない。「頑張らなければならない街」—それが東京である。

　最近、私は「向上心」というものについて考える機会が多い。自己を高めようとするならば、相応の環境に身を置くことが重要である。日本においてその象徴的な場所が東京であろう。全国の才人が集まり、ライバルも多く、その分だけチャンスとヒントも多い。向上心の高い者ほど、地方ではその可能性を阻まれることがある。そのため、地方から都市へと人が流れる現象が生じる。結果として、地方には向上心の少ない若者が多く残りがちだ。高齢者もまた、向上心に欠ける者が多ければ、変化を嫌い、現状維持に力を注ぐことになる。

また地方で向上心の高い人たちは心のざわつきと刺激を求めて外（勉強会や交流会）に出る。Jackはそのような会でそのような人の集まりである。

向上心に乏しい親は、子供の可能性もまた否定しがちである。挑戦しようとする子に「もっと努力が必要だ（つまり、お前には無理だ）」と言い、うまくいかなかった場合には「その前にやるべきことがあるだろう」と冷たく突き放す。結果として、何もしないまま、挑戦心も変化への意欲も削がれていく。こうした環境では他者を責める傾向も強くなる。

私自身、これまで東京で勝負をすることはなかった。地元が好きかと問われれば、歴史や伝統を守りたいとは思うが、心から愛してやまないかと言われれば、そうでもない。親が高山にいなければ、どのような選択をしていたか、自分でもわからない。繰り返しになるが、地方に身を置く者にとって、東京は特別な場所であり、その思いは年を重ねるごとに強くなっている。

閑話休題。

東京都知事選で前安芸高田市長の石丸氏が話題になったが、彼の存在を知ったとき、私はこう思った—「向上心が強いな、このような人物は地方にいては埋もれてしまうだろう」と。実際、彼は任期途中で市長職を辞し、東京都知事選に挑んだ。

私は、向上心の強い人が東京に集まると言っているが、すべての東京人がそうだというわけではない。東京生まれ東京育ちの人々の中には、保守的な者も多く、さらに区外と区内、23区内でもそれぞれに階層意識が存在する。石丸氏は、若者や向上心のある変化を求める層には受け入れられただろうが、保守的な高齢者層からは敬遠されたと思われる。結果的に彼が2位に終わったのは、その構造が背景にあると言える。

東京の人口は約1200万人、これは日本全体の約10％を占める。情報の9割が東京発信であり、かつて全国にジャイアンツファンが多かったのもそのためである。ちなみに、日本の就労人口は約6500万人だが、そのうち大企業に従事している者は約1300万人。日経平均や経済ニュースの大部分は、この大企業向けの情報である。

「ボーナスが過去最大」といったニュースを目にした中小企業の若者が、「うちもボーナスを上げてほしい」と願うのは無理もないが、経済情報の大部分は大企業発信であり、中小企業には関係がない話である。国も中小企業の従業員のメンタルには無頓着だが、大企業の従業員のメンタルには敏感である。そのため、経済政策も9割は大企業、それも製造業向けであり、サービス業や客商売の多い中小企業には適用しがたい。

「株価が好調でボーナスも最高なのになぜ景気は悪いのか」と疑問を投げかける識者の記事を目にすることがあるが、彼らはその理由を理解していないように思う。その答えは、国民の半数が非労働者（高齢者や子供）であり、残りの大部分が中小企業や公務員であるからだ。日本が経済大国を目指すならば、1割の大企業従業員だけでなく、9割のその他の人々の消費を活性化させることが必要である。そうでなければ、日本は再び勃興することはない。

なんとかしてほしい、と思う。しかし国や大企業は地方と中小企業をなんとかしようとは思っていない。だから「なんとかせねばならない」と思わなくていけないのは地方の中小企業の使命。

なんとかせねば。