（18）秋田竿燈祭りと紀行本（2024.8.5）

8月初旬、東北の地にて六県が競うように開催する祭りの数々。青森のねぶた、秋田の竿燈、盛岡のさんさ踊り、山形の花笠、仙台の七夕、そして福島のわらじ。この六つを一堂に「東北六大祭り」と呼ぶ者もあれば、青森、秋田、仙台の三つを「東北三大祭り」と称する者もいる。

いずれの祭りも、暑気厳しい同時期に行われるため、「東北夏祭りツアー」や「東北三大祭りツアー」と銘打たれた旅行が盛況を呈することが想像に容易い。

私もJack会員を訪問するという幸いなる巡り合わせにより、昨年は八戸の三社大祭、青森のねぶた祭りを、そして今年は秋田の竿燈祭りを堪能する機会を得た。アイリフォームの進藤社長には大変お世話になった。ここに深く感謝の意を表したい。

さて、秋田竿燈祭りに足を運び、実際にその壮観を目の当たりにすれば、心奪われるのは必定。しかし、その迫力や優美さを言葉で尽くすのは実に難しい。

秋田竿燈祭り2024年　公式サイト

　竿燈とは、竹竿に幾つもの提灯を吊るし、それを稲穂に見立てたものである。提灯には米俵を象り、長寿や風雅、祝福、子宝、豊作を意味する縁起物の紋やシンボルが描かれている。短きもので五メートル、長きものは十二メートルにも及び、最大四十六個の提灯を吊るした竿燈は、五十キログラムにも達すると言う。

　観光客の目線から見どころを挙げるならば、二つの場面が思い浮かぶ。夜の部においては、約二百六十本の竿燈が秋田市の大通りを埋め尽くす光景。そして昼に催される「妙技会」。この妙技会では、六メートルの円内で、規定演技や自由演技が繰り広げられ、若者たちが額や肩、腰に大竿を乗せ、磨き上げた技を競い合う。その技量もさることながら、夜空に舞う竿燈の美しさは筆舌に尽くし難い。

　若き日には北海道や沖縄といった、より遠き地を訪れる喜びがあった。だが今は、東北の地に赴く機会こそ楽しみとなりつつある。温泉、食事、人の温かさ、そして祭り。これらすべてが東北の魅力であり、来年はどの祭りへ出かけようかと、今から心が躍る思いである。

さて、閑話休題。

「秋田へ行ってきた」と口にすると、「少しは涼しかったですか」と尋ねられることが多い。

「名古屋よりは涼しかったが、想像以上に暑かった」と。八月初旬の秋田も、確かに夏の只中にあり、日差しは容赦なく照りつけるのだ。

秋田市内で一息つこうと、アンティークな雰囲気の喫茶店に足を踏み入れると「白洲正子を旅する」という文字が目に留まった。これは、2022年に発行された『和楽』の記事であった。

白洲正子は、戦後の外交官として名を馳せた白洲次郎の妻であり、日本各地を巡り、多くの随筆を残した。その著作の一つに『かくれ里』がある。

かくれ里（白洲正子）

「近江の山の上から、こがね色の稲田の中を、新幹線が颯爽と走りすぎるのを見て、優越感にひたったものだ。お前さんはすぐ古くなるだろうが、こっちは千数百年を生きた巡礼をしてるんだ、ざまぁ見ろ、といいたい気分であった」

これは、旅好きの心を掻き立てる、実に力強い一節である。

ここで司馬遼太郎の『街道をゆく』が思い浮かんだ。司馬が47歳の時に連載を始め、1996年2月の逝去までに43冊を執筆した紀行文集。日本のみならず、アジア、欧米に至るまで取材し、その成果はNHKの番組としても放映された。

若い頃、紀行本など縁遠いものであったが、『街道をゆく』の第29巻に「秋田県散歩」があると知り、Kindleで購入した。秋田滞在中に読み終えたその本には、秋田杉、米、金銀山で豊かだった秋田県の歴史、西面を海、東北南を山岳に囲まれ、交易ルートから外れていたことで独自の文化が育まれたことが記されていた。偶然にも２部構成の後半は私の故郷、飛騨紀行であった。

街道をゆく　秋田県散歩　飛騨紀行（司馬遼太郎）

若き日に、まさか『街道をゆく』を読むことになるとは思いもよらなかったが、旅先の歴史や背景を知ることで、その地が新たな光を放つように感じられる。先人の見識に学びつつ、旅を楽しむことの喜びを再認識した次第である。